巷の水素情報で
「水素ってどう?」と
思ってしまった方へ

〜 水素の噂、水素の役割、本当のところ 〜

 水素を医療の現場で使うようになって10年が経とうとしています。
 2007年、国際的な学術誌「Nature Medicine(ネイチャーメディシン)」に、太田成男先生の論文が掲載されてから、分子状の水素(=常温ではカスとして存在する水素)の健康に対する可能性に世界中の研究者が注目し始めました。

 原著論文は600報を超え、ヒトを対象とした臨床論文は20報以上、先日の抗加齢学会総会でも、「水素」がテーマのシンポジウムは「腸内フローラ」「糖質制限食」と並び、立ち見が出る盛況ぶりです。
 一方、「水素水は水分補給にしかならない」など、消費者を混乱させるような記事が新聞や雑誌やネットを賑わす現状には悲しみさえ覚えます。

 水素水や水素サプリメントは「食品」の範疇にあるため、「消費者が医薬品と混同するような表現を用いてはならない」と薬事法で決められています。そのため、効果や効能があっても、この場のように商品と紐付いた場所ではお伝えすることができません。水素のエビデンスに関してご興味がある方は、太田先生のご協力で作成したエビデンスサイトを参照ください(「水素エビデンス」で検索してみてください)。

 水素研究に関わる我々からすれば、現代人にとってはもう「水素の役割を無視することは、自らの体に火がついていることを知りながら知らないふりをする」ようなものです。
 ご縁あって、このメッセージを読んでくださっている方の中には「その現実を直視し、水素の本質を理解したい」と望んでいる方も多いことでしょう。ここでは薬事法に配慮しながら、水素に対する世間の誤解を解いてみたいと思います。

アルカリイオン水と水素水が混同された理由は?

 まず、水素の特徴を考えてみましょう。ここで言う水素とは水素分子(いわゆるH2)や、水素ガスとして水やカラダに溶け込んでいるものを指します。この水素、実は「抗酸化物質としての力(還元力)は弱い」という特徴があります。なのになぜ「抗酸化物質として優れている」と言われるのでしょうか?

 水素は、地球上に存在する分子の中で最小サイズ、かつ水にも油にも溶け込むという性質があります。そのため、水素を摂取した人の体内で血流に乗るだけでなく、拡散という形であらゆる細胞にたどり着き、体の隅々まで行き渡るのです。これが他の抗酸化物資と大きく異なる水素の特徴と言えます。

 活性酸素の中で、最も悪玉である「ヒドロキシルラジカル」は細胞の中で発生するため、活性酸素を無害化するには細胞の中や細胞の膜を構成する脂質に、抗酸化物質を行き渡らせることが重要です。水素はその性質上、これら都合の良い場所まで届くのです。
 そして「酸化力の強いヒドロキシルラジカルに対して、水素分子自らが酸化されることで中和をする。ヒドロキシルラジカルによって攻撃された過酸化脂質の連鎖を水素で食い止めることができる」…このメカニズムも2016年、太田先生らによってネイチャー系の論文に2報発表されました。

 次に大切なのは「アルカリイオン水」と、「水素分子(水素ガス)が溶解した水素水」とは、似て非なるものということです。

 アルカリイオン水はアルカリイオンをカラダに供給するという効能があり、それは事実です。しかし、アルカリイオン水は文字道り「アルカリ性」であり、水素水は「中性」。ここが誤解の元です。

 これらが混同されてしまう原因として「酸化還元電位」という指標があります。アルカリイオン水などの「還元力」を測定する値です。これは水素イオン(H+)の濃度を測定する酸化還元電位計を用いるため、pHがアルカリ性であるアルカリイオン水は、無論「還元力が高い」と表現されます。
 一方、中性である「水素分子(水素ガス)が溶解した水素水」は、酸化還元電位を測定した場合に「還元力が高い」という結果にはなりません。
 しかし、酸化還元電位測定装置は電極にプラチナを使っている性質上、水素も「還元力が高い」という誤表示が起こってしまう特性があるのです。

 この誤解が1人歩きしたため、「水素水は還元力が高い」と言われたり「還元水素水」と表現されたり、還元力の高いアルカリイオン水にあたかも水素分子(水素ガス)が溶存されているかのような誤解を生んでしまいました。
 水素の溶存量を測定する際は、pHや溶存酸素の影響を受けない「溶存水素計」による測定が正しく、酸化還元電位計を用いての測定は適切ではありません。
 日本では、アルカリ性の温泉で酸化還元電位を測定し、「水素の温泉だ!」などと騒ぎ立てる研究者もいるのですが、溶存水素計を用いない限り、水素の誤解は増すばかり。とても残念です。

水素を「継続する理由」は確実にあります

 国立健康・栄養研究所のコメントに「水素分子(水素ガス)は腸内細菌によって体内でも産生されており、その産生量は食物繊維などの摂取によって高まるとの報告がある。従って、市販の多様な水素水の製品を摂取した水素分子の効果については、体内で産生されている量も考慮すべきとの考え方がある」とあります。

 先に述べた、ネイチャー系の2報(*欄外参照)では、細胞膜での過酸化脂質連鎖に対する水素の役割が発見されており、腸内細菌が水素を作るような低濃度の持続供給よりも、1日2回を目安にまとまった量の水素を体外から摂取し体内濃度のスパイクをつくるほうが優れていることを示唆する研究結果も出てきています。また、水素が胃にあることでグレリンという神経保護成分が分泌されることもわかっており、これも「飲用」の明確なメリットといえます。

 これらの論文が出たのもつい先日のこと。水素の複雑な生体内での働きは、まだまだ解明されるべき部分が多くありますが、全容解明まで待つのは「もったいない」としか言いようがないのです。

 水素を毎日摂取すると、はじめは汗をかきやくすくなったりしますが、継続すると水素が体内にある状態になり、体感はなくなっていきます。水素を飲み続ける上で、メリットがあるという指標がないと継続のモチベーションを保つことが難しくなる方もいらっしゃるかもしれません。
 そのような方は、NKメディコという会社が行っているLOX index(ロックス・インデックス)を測定してみてください。定期的に測定することで、体の変化がわかり、「継続する理由」が発見できると思います。

 斎藤が診察するクリニック、ナグモクリニック東京、五反田サーモセルクリニックでLOX indexの測定が可能です。測定ご希望の方はクリニックまでお気軽にお問い合わせください。通院が難しい方は、LOXindexのサイトにて検査が可能な最寄りの施設を探すことができます。

日本機能性医学研究所 所長 斎藤糧三


Molecular hydrogen regulates gene expression by modifying the free radical chain reaction-dependent generation of oxidized phospholipid mediators. 分子状水素は、フリーラジカル連鎖反応によって修飾されている脂質メディエーターを変化させることによって遺伝子発現を調整する。
Sci Rep. 2016 Jan 7;6:18971.
Molecular hydrogen stimulates the gene expression of transcriptional coactivator PGC-1α to enhance fatty acid metabolism 分子状水素は、脂質代謝を亢進させる転写活性化補助因子PGC-1αの遺伝子発現を刺激する。
npj Aging and Mechanisms of Disease 2, 16008
医師 斎藤糧三
日本機能性医学研究所 所長
米国The Institute for Functional Medicine認定医
日本再生医療学会認定医
日本抗加齢学会会員
更年期障害の女性にテストロンを使用した自律神経調整療法のパイオニアであった、斎藤信彦(医学博士)の三男。 1998年日本医科大学卒業後、産婦人科医に。その後、美容皮膚科治療、栄養療法、点滴療法、ホルモン療法を統合したトータルアンチエイジング理論を確立。 2008年『機能性医学』の普及と研究を推進するため「日本機能性医学研究所」を設立。 2013年「食で日本を健康にします」をモットーに、一般社団法人 日本ファンクショナルダイエット協会を白澤卓二教授とともに設立、副理事長をつとめる。
主な著書に「糖質制限+肉食でケトン体回路を回し健康的に痩せる! ケトジェニックダイエット」講談社、「慢性病を根本から治す[機能性医学]の考え方」光文社新書、「腹いっぱい肉を食べて1週間5kg減! ケトジェニック・ダイエット」ソフトバンク新書、「サーファーに花粉症はいない 〜現代病の一因は[ビタミンD]欠乏だった!」小学館。雑誌掲載はGQ、ブルータス、ターザン、美ST、婦人画報、VOCE、など多数。テレビ出演は金スマ、バイキング、有吉の夜会、ほか、わかりやすい解説に定評がある。